『「正しい一般平民の質屋入門」講座』第3回
―――世相と質草2―――

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さて一人の質屋としては、他の質屋の質蔵にナニが入っているのか大変に気に なるところです。
代々続いている地方の質屋のほうがはるかに「お宝」が眠っているように思い ます。
東京と言う限られた地域で考えると、金額の差はあるでしょうけど、品物の種 類としては限られてくるんじゃないでしょうかネ。

ただお金持ちの人達はどこにでもいるとみえて、先日同業の先輩と話をしてい たら、若いお嬢さんが車で乗り付けてきて、「どうしても今日中に600万円必 要なのヨ」と言ったかと思うと、車のトランクから出るわ出るわ、エルメスの 高級バッグが6つ〜7つ、ヴイトンが10数個、金無垢のロレックスにカルティ エ、「足りなければ家から取ってくるわ」と仰ったそうです。ドッヒェーェ。

もっとも当店のような今にも倒産しそうな質屋だって、結構な高級品をお預か りしているくらいですから。

アタシんちの質蔵に入っている面白いものと言えば、刀や槍、現代作家の焼き 物くらいでしょうか。 とにかく何が持ちこまれるか分かりません。質屋は毎日が勉強の連続です。

●その1● 先日はタクシーで乗り付けてこられた中年のご婦人が、大きな木の箱を引きず りながらのご来店。
「あ、あにょー、何をお持ち頂いたのでしょうか」と訊く私。体は半分逃げの 体勢です。
「焼き物よ、焼き物。わざわざ新潟の実家から持ってきたのよ」 私「ぐ、ぐえー。そんな大きな物をお預かりすることはできませんので、ごめ んなさい」
「新潟よ、新潟。有名な焼き物よ。とりあえずちょっと見てよ」 私、力なく「どういう焼き物ですか」
「信楽(シガラキ)よ、信楽。有名な焼き物」
「信楽は存じておりますが、信楽焼きのなんでしょうか? 随分と大きな物で すが」
「壷よ、壷」

長くなるので結論を述べます。暫くの押し問答の後、結局そのご婦人は信楽と 言えば高級だという固定観念の元に自信を持って持ちこまれたわけです。   最終的には丁重にお断りしました。

●その2● テレビの「なんでも鑑定団」のお陰で、ときどき変わったものが持ちこまれる ようになりました。
数日前は「石」でした。石の置物。その石のどこかに人の顔が…。 お持ち帰り願いました。

●その3●  ラッセンのリトグラフ。娘が900万円で購入したので、いくらの値打ちがある のか? というお尋ね。
よくよくお話を聞いてみると購入価格は90万円。1桁違っていました。査定価 格は10万円也。

●その4● 占いに使うような大きな水晶玉。鑑別の結果、ガラスでしたので、ブッブー。

●そんでもって、その5●
昨日は、重―い風呂敷包み。持って来られたのはお若いご姉弟。
「ずいぶん重いですね」
「昔、おじいちゃんが買ったもので、何とか言っていう有名な石でできている んです」
また来たか。どこかに人の顔が…!?
開けてみると真っ黒な石の花器で「コレは一体なんでしょうか」とのお尋ね。
「和歌山県の那智で取れる那智黒と言う石です。よく碁石につかわれます」
結局、高級なお土産品ということでしょうか。値段はつけずにお持ち帰り。 

●ワン・デイ●
「預かってもらいたいものがあるのですが」
「いらっしゃいませ。ありがとうございます。どのようなものですか?」
「言っても良いですか?」といって辺りを見まわす客。
「はい」
「本当に良いですか?」
「どうぞ」
「アメリカ製の防弾チョッキ」
「ごめんなさい」 それをワシにどうしろっていうんじゃ〜〜〜〜〜あ!

こうやってみると、お客さまのお宅には面白い珍品がおありのようですな。 質屋は何が来ても、ほとんどの品物に説明をつけなければなりません。
大変なんですよん。   ある日、若い美人のお客サマ。美人ですから「様」をつけますが。
女性物のカルティエの時計を持ってきました。
拝見するとガラス内側の文字盤表面に細かい水滴がついておりまして、つまり 中の機械も錆びている可能性が高いと言うことなんですな。 そこで説明をしてお返ししますと、
「分かりました、今度はロレックスを持ってきます」と言ってお帰りになられ ました。

と思ったらすぐに戻っていらっしゃり、今度はロンゲ・茶髪・ピアスの青年が 一緒です。

「あのー、お願いがあるのですが」と美人の(くどいですが)女性。
「はい、ロレックスでしょうか」と私。
「実はこの人を」と、青年を指差しながら、
「アナタの弟子にしてもらいたんですけど」
「はぁ? すいません。もう一度お願いします」
「茶髪、ロンゲでも弟子にしてもらえるでしょうか?」

なっ、なんのこっちゃ。ロレックスはどうした!?

彼女の言い分は、都内に茶髪・ロンゲの若い質屋がいるとのこと。また彼に何 か真面目な仕事をさせたいということらしいのです。さらには、
「私も一緒に弟子にしてもらいたいんです」とまでのたまう。

当店は貧乏な質屋ですからとても弟子なんか置く余裕がありませんが、そりゃ 美人のアナタだけなら考えちゃう〜と言いたいのをオジサンぐっと我慢して、 なんで質屋をやりたいのかをじっくりと伺いました。

要するに、テレビの「なんでも鑑定団」のように、小さなルーペ一つで品物の ウンチクを並べ立てて査定をするのがカッコいいと思ったからなんだそうです。 ね、そこのこれを読んでいるアナタもそうじゃないんですか。

「なんでも鑑定団」といえば、お蔭様で古い品物にも価値があるんだというこ とを皆さんに教えてくれた宣伝効果は大変なもんですよ。Kissしちゃいます。

また鑑定士の人達もこれまで真剣に仕事をしてきたからこそ、あんな見事なウ ンチクが言えるんでしょうし。(すいません、ウンチ君じゃありません念のた め)
それはそれとして本当に尊敬をしておりますが、ただ…、ただです、突然に下 調べもなしに持ちこまれたものを、なんであれほど自信を持って言えるのかな あ、と言う気がします。
またものすごくゴツイ値段をおっしゃいますけれど、私達質屋にしてみれば、 本当に自分の付けた値段で買えるんでしょうね?という気持ちがあります。

質屋は値段を口にすれば、結果的に損をしようとその金額を出さなけりゃぁ、 あきまへん。
なにしろ相対(一対一の商売)の一瞬の判断ですから。
(キッパリと)けっして鑑定団を否定するものでも、けなすものでもありませ んし、質屋の業界にはあの番組のファンが多くいますよ。

若い人達が古物に興味を持ち、品物を大切にするのはいうまでもなく結構なこ とじゃぁあ〜りませんか。
前にも修行のところで書きましたが、私ちょうど30年やっています。それでも わからないことばかりで毎日が勉強です。

このお客様のように半年かそこいら勉強しただけで、ルーペ片手にウンチクが 言える様になるとはとても思えません。ただブランドバッグとかに限ってなら ば、沢山の品物の売り買いをすればあるいは1−2年で一通りのカッコはつく かもしれません。

さて、ブツが持ちこまれるとまずその石が宝石かどうか、本物かどうかが最初 の判断です。これも1年ほど宝石鑑別の学校に通って勉強すればそこまでは分 かるようになると思います。
問題はその先。それではこれがいったいいくらなのか、ハウマッチと言う問題 です。

質屋の扱うのは程度の差はありますが、中古品です。
一般の宝石屋さんの問屋仕入の様に、最初から付いてくる値札があれば楽で しょうけれど。
こんなことを書いちゃうと叱られそうですが、業界が違いますからバレない でしょう。

難しいのは、中古になって値段を踏むときの問題です。
なにしろ査定を始める基準がありませんから、とりあえず「0円」からスター ト。通常私が値段を出すときは、今までに自分が売買したり、値段付けしたも のの過去のデータを自然に頭のどこからか呼び出します。(二日酔いのときは つらい、ホントにつらい)
特に中古のものでは同じ状態の物は決してないわけで、それでも記憶に類例が あればわりと簡単です。古い記憶であれば今の相場に修正致します。

私達、東京多摩地区の質屋の有志が10人ほどで宝石貴金属の市場を始めてから そろそろ20年になります。年に5回の市場で、1回に処理する時計、宝石、貴金 属は大体2000点前後ですからあとは掛け算してください。
それでも毎回の市場の度に相場は変わり、新製品が増えてきます。その時々で 売れ筋、好まれる宝石、デザインが変わります。ですから私の大っ嫌いな勉強 は続いていくのです。

というようなお話して、せっかくの弟子入りですがお引取り願いました。

ここでチョンと拍子木が入り幕となります。次回もお楽しみに!



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