『「正しい一般平民の質屋入門」講座』第1回
―――質屋入門編 その1―――

シッチーMkU



こんにちは! 私、質屋です。
キャーやだ、触るとピクピクする。そういう生きている質屋です。
ひょんなことから、いっちょ質屋について書いてみるかと思い立ちました。

さて一口に質屋と言っても、私の住む関東の東京近郊と、関西では全く商売の 仕方が違うと思います。今回私が書くのは東京の郊外版です。

ちょっと皆さん、思い浮かべてくださいな。お宅の近所に質屋がありますか? 昔と言っても少し前までは、ここ東京では一つの駅に少なくても2〜3軒の質 屋があったものです。東京の場合、この30年ばかりで都内2000軒あったものが、 現在すでに700軒を割ろうとしています。
そう滅び行く職種なのです。このままでは、天然記念物のヤンバルクイナとか イリオモテヤマネコの仲間入り目前のレッドデータブックに記載されそうな種 族なのです。近縁種の純粋な古着屋さんとか古物屋さんと似たようなものです。

しかしこの質屋業、組合本部の正式発表によると約700年もの歴史があるそうな んです。
品物を担保に金を貸すと言う商売ですから、人類が貨幣経済を築いたときから あるわけですネ。
700年と言えば並大抵の妖怪や幽霊より歴史があるんですよ。

私だってそんなに長いこと生きてるわけじゃありませんから、大昔、昔のこと なんて知りません。せいぜいがちょっと昔のことだけです。

この土地で私の父親が始めて今年で創業40年。つまり私は2代目のボンボン、 いうなればおぼっちゃまです。私の所属地区の組合では、2代目のことを、頭 に地名をくっつけて「○○のおぼっちゃま」と呼んでおります。

もちろん地方に行けば何代目という、ご先祖様の背後霊を背中にびっしりと幾 重にも背負っている同業の方も沢山いらっしゃると思いますが、東京に限って 言えば私の知る限りでは4−5代目とまりだと思います。

よく時代劇に出てくるような、悪代官と町の顔役がつるんで「ホッホッ、そち もワルじゃのう。」「お代官様、これは例によってご挨拶代わりのキリモチで ございます。」なんぞと優雅に活躍していた頃のご先祖様とはちがって、昨今 はこの業界自体が生き残りをかけている状態です。

一口に東京の質屋と言っても大きく分類して、困っている質屋と困っていない 質屋に分かれます。もちろん質屋と言う商売ですから、その日の金に困ってい るという情けない質屋は私のところくらいだと思いますけれど…。

困っていることの一つ目は、後継者の問題です。ほとんどの質屋が自分の息子 を後継ぎにはさせたくないと思っています。
事情はその質屋によってもいろいろあるんでしょうが、業界そのものの先行き が不透明ですし、ナマの人間生活の裏事情に触れる機会の多い因果な商売とい うことがあります。この辺の事情はまた後で書きますが。
げんに私の所属する支部でも「○○のおぼっちゃま」と呼ばれる後継ぎはほん の2〜3人。

話は横道にそれますが、東京の質屋はまず協同組合の本部が神田にあり理事長 というエラーイ人がいます。その下に、警察と同じ基準で「○○方面」という 地域グループに分類されています。

なぜかというと、そもそも質屋の営業許可はその都道府県ごとの公安委員会よ り出されます。ついでに言えば古物商の許可も、エッチ関係に代表される風俗 の許可も、もっとついでに言えば「銃砲刀剣等所持等許可証」の発効も同じ所 です。地方の警察では「防犯課(現在は生活安全課)」というところで対応し ます。
東京の警視庁は、皇居に一番近い第一方面から、多摩の八王子方面に新設され た第九方面までありますが、質屋は昔の分類そのままで、現在も第八方面まで です。

エイッと話を本道に戻しましょう。
困っていることの二つ目です。
バブルの頃までは質屋もそこそこイケてる商売でした。なんたって質屋は庶民 の味方。いわゆる高利貸しとは一線を画す心意気です。もちろん質屋だって食 わなくちゃいけませんから、利息は頂きます。

でもほとんどの質屋は、「オレッチは庶民の味方だぁ」という自負で商売をし ています。
ところが消費者金融つまりサラ金が花形となってからは、もういけません。特 に若い世代は質屋が品物でお金を貸すということさえ知らないのですから。
まさかこれを読んでおいでのアナタは大丈夫でしょうね?

念のため、質屋の仕組みを書いておきます。
質屋は担保として、お客様の大切な品物をお預かりします。そこでその品物に 現在どのくらいの価値があるかを査定します。これがいわゆる「値付け」とか 「値踏み」などと言われるものです。

次に預り証つまり「質札」を発効して、お金をご融資致します。
質屋の保管期間は原則として3ヶ月。この間にご融資の元金と利息を頂いて品 物をお返しするのが基本パターンです。
だけど、もしその3ヶ月以内にお金を工面できないときにはどうするんだい? などと、とっても気になる疑問をお持ちになるのは当然のこと。
ところがほとんどの質屋では、例えば保管期間内に2ヶ月分の利息を頂ければ 保管期間が2ヶ月延長されるようになっております。
どうです、これなら安心でしょ?

万が一契約期限の3ヶ月を過ぎ、どうしても利息の支払、質受けできないとき はお預かりした品物はあきらめていただくことになりますが、これで終わりで す。
そうです、質屋は決して取りたてなど致しません!(良い決めゼリフでしょう) これを流質といい、その品物が「質流れ品」として近頃よくバーゲンなどで売 られている商品になるのです。

よく質流れは儲かるだろう?などと言われますが、儲かるような低い査定では お客様が満足されませんし、質屋の商売は頂く利息が収入になるのですから相 場一杯に査定をします。
つまり融資金額が多いほど利息収入も多いわけなんです。
質流れ品は大体が市場で売られますが、買う相手も業者ですから、ほとんどが 貸付元金を割ってしまいます。つまり損です、赤字です。ひゃー、恐ろしい。

とまあここまでが入門編です。なんのこっちゃ。

話の順番として困っていないうらやましい質屋の話にもちょこっと触れておき ます。
そういう質屋の多くは結構な土地持ちで、質屋の営業が下向きになった頃から、 とっとと廃業してアパートやマンションの経営に道を開いた人達も沢山います。 中には質屋をやりながらサラ金やホテルの経営に進んだ企業家もいます。
こういうところの後継ぎは「青年実業家」ですから、業界の後継者問題とは縁 の無い世界のことです。
悔しいだけですから、これでおしまい。勝手にして。

先ほど質流れ品の話を書きましたが、この業界で流行ったのがいわゆるディス カウント店の併設です。バブルの頃までは結構商売になりました。
しかし、どんどんと大型の量販店が増えてくるとこれもおぼつかなくなり、ま た大型店の出店ラッシュのお陰で流通の改革と商品の乱売が始まりました。
悪いことではないと思いますが、経済学者の先生たちが偉そうに話すくらいに 世の中の仕組みが変わった反面、問屋業と言われるものがほとんど無くなり、 運送業も痛手を受けて失業者も増えてきました。

いくら品物が安くなっても、それを購買する消費者に金が入らなければ品物は 動きません。目先の安さに騙されておりますが、景気の動向に大きく左右され る庶民には、なかなかどうして苦しいもの。
消費者は安い品物があると喜びますが、我が家に金を運んでくる父ちゃんの会 社が火の車になってたら、暢気に喜んでばかりもいられませんよね。

話は戻りますが、バブルの頃からブランドブームというものが来ました。 近頃ではバブル自体を知らない世代も増えてきています。
他の商品の商品価値が価格破壊でどんどんと下がる中、ブランド物の購入価格 だけは上がりつづけています。結果として「質屋」イコール「ブランド商品」 という図式が出来上がるのです。

そんなわけで次回は「質草」の話をすることにいたしましょう。


》》 次へ



 TOPページ