| JapanMailMedia 036F号から転載。 |
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■イスラム・コラム No.6 山本芳幸 この一週間はとても長かった。 いるはずでないオフィスで、オレ、休暇中なんだよ、と恩着せがましく言って見れば、オレもだよ、という言葉が帰ってくるだけ。なんなんだ、この「休暇」というのは。アフガニスタンから急遽、退散してきた職員でイスラマバードのオフィスはまた満員。去年のアメリカのミサイル攻撃の後のように、また当分仕事にならないのではないだろうか。アフガニスタンの子供は今も寒い冬の中を裸足で駆け回り、泥水を飲んで生き長らえているのだろう。何も知らなければ良かった、と時々思う。 1.デッドライン、その後 国連制裁のデッドライン直前にして、アフガニスタン、パキスタンが騒々しくなった。これについては、JMMの緊急リポートとMSNニュース&ジャーナル に既に書いたので、その後、新たに分かったこと、新たに起こったことを若干付け足しておこう。 ●アフガニスタン・ニューヨーク 国連制裁に対する抗議デモはアメリカでもあった。15日、ニューヨーク・イスラミック・センターがアメリカに住むアフガン人を組織して、ニューヨークの国連本部前で国連のアフガニスタン制裁に抗議するデモを行った。このニューヨーク・イスラミック・センターは、タリバン擁護をする組織ではない。この組織を代表して話をしたワヒーダ・ゼヒリ女史によると、国連(アメリカ)がたった一人の男(オサマ・ビン・ラディン)とトラブっているからといって、アフガニスタン全土を対象にした制裁をするのは適切ではない、国連はもっと他の方法を採用するべきだ、という意見らしい。 この抗議デモとその暴発によるアフガニスタン内の国連施設の被害の後、タリバンと国連の間で、ちょっと妙な、あるいは滑稽なやりとりがあった。イスラマバードの現地国連本部のまとめ役みたいな人がタリバンに国連の警備をもっと厳重にしてくれないと困ると申し入れた。アフガニスタンからの情報によると、タリバン兵士は暴動を鎮圧するためにかなり奮闘したようなのだが、手を抜いていたんじゃないかといわんばかりの申し入れだったので、タリバンはむっとしたんではないだろうか。そもそも国連が決議した制裁が引き金になって、こんなことになったんじゃないかと言いたいところだろうし。しかし、タリバンはそんなことは言わなかった。16日、ムッラー・オマールは全アフガン国民に呼びかけた。 「アフガン人よ、忍耐と自制を示すのだ。もうデモ行進を止めよ、デモなど止めて、アッラーに祈るのだ、抑圧者に懲罰が下ることをアッラーに祈ろう!」 オマールの言葉が功を奏したのかどうか分からないが、とりあえず抗議デモは終息した。国連はアメリカの操り人形ではないか、国連にはもう信用がないともオマールは言っている。ともかくも、タリバンはアフガニスタン内にある国連事務所の警備を大幅に強化した。さて、誰が誰を何のために守っているのか、もうこれを読んでいる人は分からないんじゃないだろうか。このやりとりを見て、国連はタリバンにほとんどガキのつかい程度の扱いしか受けていないと感じるのは僕だけだろうか。国連の信用失墜はこんなところに現れるんだろう。 ●イスラマバード ターゲットにしたと思われるのは、アメリカ大使館、アメリカン・インフォーメーション・センター、サウジ・パク・タワー(国連)の三つ。WFP事務所にとめてあった職員の車に当たったロケットとState Bank of Pakistan の敷地内に落ちたロケットがどの車から発射されたものかはまだ特定できない。この二つは運悪く当たってしまっただけでターゲットになっていなかったようだ。ということは、ターゲットにパキスタン政府(ムシャラフ政権)は入ってなかったものとして見るべきだろう。 現在、パキスタンとアメリカ両国がこのテロの背景を調べているが、まだ犯行者が誰なのかは分かっていない。パキスタンの秘密情報機関であるISIで
、1980年代後半、長官を勤めていたハミド・グル将軍の談話が地元の新聞に出ていた。ISIは、アメリカの援助を受けてソ連相手のジハードを戦うアフガン・ムジャヒディンをパキスタン側で指揮していた機関でもある。ハミド・グルは、今回のテロに使われたロケット・ランチャーを見て、こう言った。「これは手製のランチャーだ。粗野だな。ロケット・ランチャーなんかマーケットで簡単に手に入るのに、なんでこんな粗野なランチャーを使ったんだろう?」思わず吹き出しそうになる談話だが、これがパキスタンのリアリティだ。武器なんて簡単に手に入る。改造拳銃じゃなくて、ロケット・ランチャーのい 誰がやったかということに関する詮索が関心をひくところだが、メディアで議論になっている、いくつかの可能性を整理すると次のようになる。 (1)「タリバンあるいはタリバンの指示で誰かががやった」 (2)「タリバンが行ったテロと見せかけて、タリバンをもっと孤立に追い込もうとする分子がやった」 (3)「パキスタンの反ムシャラフ派がやった」 (4)「インドのRAW(情報機関)のしわざだ」 いずれにしても、まず「テロがあってもおかしくない」という状況があって、その通りテロが起こったか、あるいはその状況が利用されたわけだ。一般のパキスタン人はどう思っているだろうか。何人かに聞いてみたら、ことごとく、何をきいているんだ、このタコ、という怪訝な顔で返事が返ってきた。誰がやったと特定するわけではないのだが、彼らに共通しているのは、パキスタンの情報関係が絡んでいるに決まっているじゃないか、という返事だった。 ロケット・ランチャーというのは、粗末なものであろうと洗練されたものであろうと、ハンドバッグに入れて持ち運びできるようなしろものではない。かなりでかいのだ。そんなものを真昼間に運んで、かつ他人の車に仕掛けて、ロケットを発射するところまで、誰にも見つからずに大使館や国連の密集する最も警備の厳重な地域で、パキスタン政府内のなんらかの協力なしでできると思うのか、というのが彼らの返事だ。 確かにそれはほとんど不可能であるように思える。では、ムシャラフがそんなことしたのか?いや、たぶんそうではないだろう、政府内の反ムシャラフ派が動いたのではないか、という言葉が返ってくる。それでは、上記の(3)のようなことなのか?と問えば、いや、タリバン系の悪事に見せかけるためにアメリカのCIAがパキスタン内の誰かを使ったのかもしれない・・・。このへんになると、もう憶測の憶測になってくる。現時点で得られる情報だけでは、これ以上なんとも言えない。 ちなみに、ムシャラフはコメントを求められて、ほとんど絶句していた。 彼の言葉はこれだけだった。タリバンの最高指導者ムッラー・モハメッド・オマールはテロの直後にこれを非難する声明を出している。オマールはこのテロをアフガニスタンとアメリカ/国連の間の緊張関係を煽る陰謀であり、かつ、アフガニスタンとパキスタンの友好関係にひび割れを入れようとする陰謀でもあると言う。そして、我々は、どこで行われようと、どのような形態であろうと、いっさいのテロに反対する、と付け加えた。これはタリバンの従来からの方針で、これまでも再三、オマールはテロ行為を非難する声明を出してきた。 ●もう一つのテロ ●踏み倒し組、逃げ切る(?) 先週、予想したとおり、暗いメールになってしまった。暗くなったついでに 2.No Win Situation オサマ・ビン・ラディンをめぐってのアメリカ(そして国連)のタリバンに対する一連の対応、なかでも国連制裁とそれに対する抗議デモ、国連事務所の襲撃、そしてそれと関連するかもしれないイスラマバードでのテロ、この状況をBBCは、No Win Situation と表現していた。で、深い分析が続くのかと思ったが、看板倒れで中身はほとんどなかった。しかし、この看板だけ使わせてもらおう。 ある政策を実施したとして、それによって影響を受ける社会の構成員全員が利益を得るなら、それはひとまずいい政策と呼べるだろう(1)。しかし、普通そんなにうまく行くことはあまりない。タバコなんて害しかないから、全世界禁止だと決めたとしても、タバコ屋が困る。歩道で逆立ちは禁止だと決めたとしても、大道芸人が困るかもしれない。あちらを立てれば、こちらが立たずという状況が起きることが多い(2)。こういう時の解決に、立たない集団に補償をして一応全員立ったことにするというのがある(2')。ゴミ収集はみんなのために役に立つ、ゴミ焼却場近辺に住む人以外は。そんな時は、ゴミ焼却場近辺の人に補償をして、ゴミ収集・焼却を実施するみたいに。次に、全員にとって利益があるわけでないが、補償なんてする必要もない状況があらわれるような政策の可能性もある。社会の少なくとも一人に利益があって、しかも他の誰にも不利益がないなら、その社会は少なくとも総体としては以前よりいい状態といえる(3:パレート改善)。もっとも、「一人だけいい思いをして!」と、恨みつらみが発生する可能性はあるのだが。 実施可能な政策を整理すると、 まず、言うまでもなく、アメリカは一貫してアメリカの利益(オサマ・ビン・ラディンの引渡し)を主張しているのだが、それがタリバンにとっても利益のあるものかどうかというと、まったくないので、アメリカの政策は(1)でも(3)でもない。オサマをアメリカに引き渡すことによって、タリバンはパシュトゥーン族の掟を破り、かつイスラムの教えに叛くことになる。これは国内においても、イスラム圏においても、政治的自殺である。自殺(正統性を失い政権崩壊に至る)だから、タリバンにとって、これ以上大きな不利益はない。そこで、アメリカは、タリバンが欲している政権承認をちらつかせて、その不利益を補償しようとしている。しかし、自殺してしまっては、政権を承認してもらってもしょうがないのだ。つまり、この補償は不利益を十分に補うことができない。そして、アメリカは次の手として制裁という手段をとった。 これは、もう一つ別種の不利益を持ちこみ、(2)との比較を迫っているということだ。具体的に書くと、a. 「オサマの引渡し+政治的自殺+政権承認」と、b.
「経済制裁+孤立化」の間で選択をしろとアメリカはタリバンに迫る。どうだ、b. の不利益を被るくらいなら、a. の不利益+補償を選択した方がましだろうということだ。 ということは、このゲームはタリバンの勝ちか?いや、そうではないだろう。 この状況を打開するには、どうすればよいのか。 だから、オサマ・ビン・ラディンがアフガニスタンを勝手に出て行くという形をタリバンは暗に提案したのだ。これなら、その後、オサマに何があっても(アメリカに捕まっても!)、タリバンは自殺から救われる。しかし、アメリカはこれに乗らなかった。アメリカは状況を読み違えているのではないだろうか。この辺の事情はイスラムの人にはよく分かるだろう。最近、サウジ・アラビア王室がオサマは脅威でもなんでもない、騒ぎすぎだと談話を出したのも、アメリカへの牽制のような感じに読める。 アメリカがバカなら、アメリカにそそのかされて勝者のいないゲームに飛び込んだ国連はもっとバカなのだろう。しかし、アメリカはいずれ軌道修正するのではないかと思う。国連はその時、アメリカが電撃的に中国と国交を回復した時の日本のようにあわてるだろうが、アメリカはそんなこと知ったこっちゃないだろう。 11月2日、アメリカ上院の南アジア外交小委員会で、ミルトン・ビアーデンが証言をした。彼はかつてスーダン、パキスタンのCIAのチーフを勤めていた。特に、ソ連相手のアフガン聖戦時にパキスタンに駐在したCIAのリーダーだったので、アフガニスタンの状況には詳しい。彼がまずパキスタンとの今後の付き合い方について証言した。彼は、ムシャラフはアメリカにとって非常に重要で強力な機会を提供するだろうと証言した。詳細は省くが、ムシャラフとうまくつきあっていくことがアメリカにとっての利益であるということを彼は力説していた。その後、アフガニスタンにも少し触れるのだが、そこで彼は、タリバンはアメリカと同じくらいオサマをアフガニスタンから出したがっている、アメリカ政府はタリバンとの対話を再開して(re-engage)、アフガンの文化 ミルトン・ビアーデンは、パキスタン、アフガニスタン、あるいはイスラム圏一般の感情や文脈、そこでの世界の見え方のようなものをよく理解しているのだろう。だからこそ、小委員会の証言に引っ張り出されたのだろうけど。 山本芳幸(在イスラマバード) ・UN Coordinator's Office for Afghanistan / Programme Manager (国連アフガニスタン調整官事務所 / プログラム・マネージャー) |